【開催記録】ALIGN Webinar #5 「AIガバナンスとフェアネス」ゲスト:工藤郁子さん

ALIGNウェビナーで初の日本語開催となる第5回では、大阪大学社会技術共創研究センター特任准教授の工藤郁子(くどう・ふみこ)さんに講演いただきました。

以下はALIGN事務局によるまとめです(正確な内容な動画をご参照ください)。

工藤郁子さん(大阪大学社会技術共創研究センター特任准教授)


AIガバナンスの概況

前半では、国際ルール形成の現場にもかかわってきた工藤さんより、近年のAIガバナンスの状況の概観が共有されました。AIガバナンスの議論が、原則から実践までの階層を成すこと、2010年代後半における「何が大切か」「なぜその価値を目指すのか」というWhat/Whyをめぐる議論の段階から、2020年には「誰がどのように価値を担保するか」「それをどのように確認するか」というWho/Howをめぐる議論に移ってきていること。また、各国のAIガバナンス動向として、主に米国に見られる「デジタル自由主義」、EUの「デジタル立憲主義」、そして中国などに見られる「デジタル権威主義」という大きく三極で捉える見取り図が示されました。

また、AIガバナンスは、2022年11月のChatGPT公開を境に「生成AI以前/以降」で分けられるといいます。生成AI以前は、「AIを用いた個人分析が、自由や平等との関係で重大なリスクを伴うという懸念」が主たる論点だったのに対し、生成AI以後は、AIの開発・利用過程を通じた社会的不平等の再生産が論点化してきました。

フェアネスの論点に関しては、生成AI以前は、顔認証APIにおけるジェンダーと人種による認識精度の格差(Gender Shades問題)などが指摘されていたのに対し、生成AI以降は、生成AIが既存のステレオタイプを強化しうる出力をすることが問題視されてきます。

なぜバイアスが問題なのか

こうしたバイアスへの対処方針を考えるにあたっては、そもそも「なぜそもそもバイアスが問題なのか?」が問題になります。後半では、法学者としての工藤さんより、バイアスが問題である理由に関する人文・社会科学の観点からの3つの考え方が解説されました。

  • 過少代表説:「実社会をうまく代表できていないのが悪い」という考え方

  • 自由侵害説:「基本権(人権)や自由を侵害するのが悪い」という考え方

  • 社会的意味説:「ある特定の文脈の中で、特定の人々を貶める意味を持つのが悪い」という考え方

これらの立場は、それぞれに私たちの「バイアスの悪さ」に関する直観を掬い取るものでありながら、ルールとして実装していくうえでの利点と難点があるといいます。

ここで、AIの長期リスクとの関連で、とりわけAI for Scienceに関する含意が取り上げられました。過少代表の問題は、差別などを再生産するだけでなく、研究開発をバイアスがあるAIで推し進めることは、今後の発見される科学的知見の方向性をゆがめてしまうのではないか、という指摘です。ALIGNが主眼とする未来のAIの社会を考えるうえでは、AIの出力が社会にどのようなフィードバックをもたらし、人間の活動のどう方向づけていきうるのかという視点は、バイアスの問題に限らず重要な検討事項だといえそうです。

質疑応答では、三つの学説をどのように現実の国際ルール形成や企業での方針決定に生かしていくかなどについて、オーディエンスを交えた質疑応答が行われました。

※資料、本記事、動画の許可のない転載を禁じます。

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