超知能がある未来社会シナリオコンテスト

主催:AIアライメントネットワーク
協賛:人工知能学会
協賛:トヨタ財団助成プロジェクト「人工知能と虚構の科学:AIによる未来社会の想像力拡張」

「超知能がある未来社会シナリオコンテスト」は、私たち人類がテクノロジーと生きる未来社会について、より柔軟かつ深く理解することを目的とし、2050年までの未来社会シナリオを一般公募し、優れたものを表彰するコンテストです。2024年5月の人工知能学会の企画セッションの一部で表彰式を実施しました(作品公開時期は未定)。

雑誌 人工知能への掲載:小特集:「超知能がある未来社会」

人工知能、39 巻, 4 号, 2024にて、小特集「超知能がある未来社会」として、本企画を中心とした記事がされました。

概要につきましては、小特集「超知能がある未来社会」にあたって を御覧ください。それ以外の記事は暫くの期間は有料となりますがJ-STAGEよりダウンロードできます。また会誌(Kindle版)の購入も可能です。また関連記事として、私のブックマーク: AI アライメント(有路翔太)が無料公開されています。  

小特集の目次

  • 小特集「超知能がある未来社会」にあたって    山川  宏・大澤 博隆    697

  • AI の定量的安全保証とAGI アライメントに向けて     ベンジオ ヨシュア,翻訳:丸山 隆一    700

  • 超知能がある未来社会のシナリオコンテスト:企画から選考まで    山川  宏・池澤 春菜・大屋 雄裕・大澤 正彦・大澤 博隆・金井 良太・                                         栗原  聡・高橋 恒一・戸谷 洋志・中尾 悠里・西堤  優・ジェプカ ラファウ    706

  • 【入選】第3 次ジャポニスム運動とAI による人類統治時代「パン・ジャポニカ」     中嶋 健治    711

  • 【入選】If    塚本公香    711

  • 【入選】テクノ・グノーシス主義の勃興まで    まくるめ    712

  • 【入選】カスタマイズと人工子宮    水田 七海    712

  • 【佳作】分身とともに生きる社会の憂鬱    山口 明彦    713

  • 【佳作】プロメテウスの涙    八鳥 孝志    716

  • 【佳作】「救世主」の帰還を待つ人類は造物主の座を消失する    佐久 ユウ    719

  • 【佳作】AI による非エージェント的支援が浸透した2050 年の社会    本村 英二    723

  • 【佳作】機械仕掛けの翼とともに:学術AI(SAI)がもたらす第3 次科学革命     玖馬  巌    726

  • 【佳作】今際の友として~ Well-dying Robot    吉田 雄丸・浅井 順也    730

  • 【佳作】AI to You     遠野 四季・村田  大    734

  • 【佳作】φ(ファイ)の正夢     有路 翔太・雨宮  優・門井 翔佳・高橋 翔(Sho T)・榊 みや子    736

  • ビジョナリー達:超知能がある未来社会シナリオコンテスト表彰式の記録    林  祐輔    740

  • 私のブックマーク: AI アライメント   有路 翔太     753

シナリオコンテスト表彰式

本シナリオコンテストの表彰式が、2024年度 人工知能学会全国大会の中で行われました。

シナリオコンテストの結果

シナリオコンテストの審査プロセスは、応募作品60件に対して3段階の厳密な選考を経て行われました。

一次審査では、各選考委員が少なくとも3作品を推薦し、公平性を保つため各委員に16作品が優先的に割り当てられました。この段階で30作品が二次審査に進みました。二次審査では、残った30作品に対してより詳細な評価が行われました。各委員に10〜11作品が割り当てられ、「重要性」「独創性」「蓋然性」の3つの指標に基づいて総合的に評価されました。各作品の最終評価は4人の委員による平均点で決定されました。最終審査は2024年4月22日に全委員参加のオンラインミーティングで実施されました。二次審査の結果報告後、各委員が佳作以上と考える作品を挙げ、13作品が詳細に議論されました。慎重な審議の結果、優秀賞に該当する作品はないと判断され、最終的に佳作8作品、入選4作品が選出されました。

このプロセス全体を通じて、公平性と綿密な評価が重視され、各段階で慎重な選考が行われました。最後に、選考委員により各受賞作品の授賞理由が作成されました。

選考委員会は、山川宏氏を委員長として、池澤春菜氏、大澤正彦氏、大澤博隆氏、大屋雄裕氏、金井良太氏、栗原聡氏、高橋恒一氏、戸谷洋志氏、中尾悠里氏、西堤優氏、ラファウ・ジェプカ氏が委員となる合計12名により構成されました。

佳作

佳作を獲得した8作品について、タイトル、作者、受賞理由紹介します。(タイトルをクリックすることで作品の内容を閲覧できます。)
  • φ(ファイ)の正夢(有路 翔太,雨宮 優,門井 翔佳,高橋 翔(Sho T),榊 みや子)

    • 授賞理由:わたしはSFには「今・ここ」を離れ,遠くまで連れて行ってくれることを期待している.そういった意味でこのシナリオには跳躍力と夢想の力があった.未来の解像度と叙情性,堅実さと飛躍のバランスがよく,BMIを通じてAIが人間の無意識の願望を具現化し,各文化圏の終末観を顕在化させるというアイデアはユニークだと感じた.総じて,テクノロジーと人間の心理,伝統と現代,理性と想像力などを見事に融合させた,充実したシナリオであると高く評価できる.最終的にはAIが手綱を握った形になるものの,そこに至る過程の説明が十分でない面もある.しかし,全体として大変魅力的で,さまざまな示唆に富む点を評価した.審査員からも「よく知られた理論に基づいて色々な工夫を加えた,かなり興味深い内容」「シナリオとしての独創性」に良い点をつける一方で,「特別驚きがあるわけではない,優等生な作品」「多くの疑問点があり,蓋然性は低い」というマイナスの評価もあった.

  • 機械仕掛けの翼とともに:学術 AI(SAI)がもたらす第 3 次科学革命(玖馬巌)

    • 授賞理由: 本シナリオでは未来における社会の変化を,人工知能による科学革命の点に特化して,シナリオの形で記載している.既存の技術に対する調査を踏まえ,具体的で現実的なシナリオを描いている.人工知能による科学革命自体は,現在の技術発展から考えれば十分に見通されるものであり,独創性の点ではやや評価が低くなった.ただし,本コンテスト内では十分に独自性があった.重要性は高いシナリオであると言える.また,技術動向の進歩が遅いのではないかという懸念もあったが,水準以上の蓋然性を持つシナリオであると考える.また表現手法の観点で,本シナリオは個別シナリオ1を未来の科学記事,シナリオ2を未来の論文概要として見せ,文献を違和感なく引用したうえで,シナリオ3を物語の断片として見せており,限られた紙面の中で,多面的な角度から,未来シナリオをうまく伝える表現力に長けている.超知能がある未来社会を,社会で広く議論する上で必要な手法を持った,佳作に値する作品である.個人的には,その時代に諦めずに科学を続ける人間科学者の動機の根源を具体的に示して欲しかったという気持ちもあるが,これは我々研究者側の課題と捉えるべきであろう.

  • 「救世主」の帰還を待つ人類は造物主の座を消失する.(佐久ユウ)

    • 授賞理由:本作品の要となる未来の技術は,AIを通した動植物の理解促進を目的としたものであり,その発想は非常に独創的なものと言えるでしょう.それと同時に,この技術は,生物多様性の保護や資源の持続可能な利用の促進といったSDGsに,AIがいかに資するのかについて大きな示唆を与えています.この技術の実現は,現在のような人間中心の倫理観や社会構造に対して,大きな変化をもたらす可能性があり,本作品はその影響について様々な事情を考慮して鋭い洞察を加えています.とりわけ,当該の技術が必要とされる社会的背景や,人々がいかにこのような新技術を受容し適応していくのか,さらにそれによる価値観の変化などの描写が巧みです.全体として,技術の進歩が人間社会に与える影響を多角的に描いており,未来社会のあり方についての重要な示唆に富んでいます.技術と人間,そして自然との新たな関係性を考察することで,これまでにない未来社会を提示しており,その点で優れています.

  • AI to you (遠野四季,村田 大)

    • 授賞理由:個人の社会進出をサポートするためにAGIを用いるというシナリオは,SNSの利用や成人年齢の引き下げなどで公的な場に出ることが低年齢化している社会的情勢に対して一つの解決策を与える点で独創的であり重要度が高い.加えて,人の成長をサポートするためにAGIを用いるという観点は,現在も行われているユーザーモデリングや人との対話技術等の研究の先にある目標を示し,科学的な蓋然性も高いと考えられる.以上より,本シナリオは重要性,独創性,蓋然性の面で良好なバランスが取れていると考えられるため,佳作として選定する.一方で,本シナリオでは最終的にAGIによるサポートが終わった時にAIから人に「願いが伝えられる」とされているが,この「願い」が何かが不明瞭であり,この点がより明確に書かれていればなおよかった.また,このようなAIが広がった社会の中でそれぞれの個人がどのように成長していくのか,より具体的には個人だけでなくAI技術も発展していくはずなので,そのような社会の中でAGIによる支援が技術の変化と共にどう変わり,個人から見たAGI社会の体験がどう変わっていくかがより具体的に書かれているとより良いシナリオになったと思われる.

  • AIによる非エージェント的支援が浸透した2050年の社会(本村英二)

    • 授賞理由:現時点においてすでに,個人を取り巻く情報の量とそれがもたらす選択肢の数は,一人ひとりの人間がそれらを評価したうえで望ましい帰結をもたらすものを選択するという古典的な意思決定モデルを現実的には機能しないものにしている.我々が自分にとって有益な選択を実現するためにはリコメンデーションなど電子的な手段による支援が不可欠のもとになっているし,この傾向は将来に向けてさらに強まるだろう.その状況で,各自の考える「私らしい選択」を可能にする支援システムの将来像としてかなり確実性の高いシナリオを提示した作品だと評価することができる.ただし「非エージェント的」という表現の意味するところが重要なはずなのだがその点を作品自体から十分に読み取ることができなかったことは残念であった(人間から独立して行動しない,程度の意味であろうか).

  • プロメテウスの涙(八鳥孝志)

    • 授賞理由:本作品は,反出生主義の拡大と超知能の登場によって引き起こされる社会変革を描き,その意欲的なテーマ設定は高く評価されます.また,他の作品には見られない人工子宮技術の出現というテーマも興味深いです.ただし,長期主義との関連性についての掘り下げが不足しており,反出生主義との対立構図がやや表面的な印象を与えてしまう点は惜しまれます.作品の終盤で超知能が人類の未来を手放す決断を下す部分については,蓋然性に疑問が残りますが,もう少し詳細な説明があれば説得力が増したでしょう.とはいえ,超知能と人工子宮技術の出現は十分に考えられる未来の論点であり,反出生主義と長期主義の立場から生じる倫理的ジレンマについての問いかけは,読者に重要な視点を提供しています.この作品は,特に独創的とは言えないものの,私たちが未来に向けて考えるべきテーマについての考察を深めるきっかけを与えており,その価値は認められるべきです.作者の今後のさらなる成長と活躍を期待しつつ,ここに佳作として選出させていただきました.

  • 分身とともに生きる社会の憂鬱(山口明彦)

    • 授賞理由:本シナリオは,2050年の未来社会で分身がどのように社会に溶け込み,影響を与えるかを描いている.2025年からの技術進化によって,分身が単なるツールから人格を持つ存在へと成長する過程がリアルに表現されている点が秀逸だ.2025年の時点での人工知能の普及や,2035年には分身が「本人よりも本人らしい」存在となる状況が具体的に描かれており,分身が個人の代行者として社会で活躍していく未来像を巧みに織り込んでいる.2045年には,分身が物理的な身体を持つクローンへと埋め込まれることで,身体性を獲得するにいたり社会的地位や権利の問題が複雑化する.この未来像は,テクノロジーがもたらすあり得る未来をリアルに描写している.全体として,本作品は知能技術の進展によって,人間のアイデンティティが喪失する可能性を考えさせる意欲的な作品である.現代の技術が実現しうるサービスから発展した未来のビジョンを描いている点で,その独創性と現実感が高く評価される.

  • 今際の友として 〜Well-dying Robot(吉田 雄丸(Academimic),浅井 順也(Academimic))

    • 授賞理由:私は,このシナリオが,機械の『死』を描いていて衝撃を受けた.いわゆる「デジタル・ツイン」と,死の問題に関わるシナリオは,自分の自我や意識,記憶を仮想世界にコピーすることで自分の存在を「拡張」する可能性に焦点を当てているものがほとんどである.しかし,このシナリオでは,機械の「見せかけの」共感性が,最後の数日間における伴侶として,良い影響を人に与えることが描かれていた.人とロボットがともに死にゆくというプロセスは,物議を醸すだろう.しかし,このエッセイは人工知能には,そのような未知のニーズがあることをおしえてくれた.単身の高齢者のなかには,自分だけで孤独に逝くよりも,機械の手を握って安心して共に逝きたいという考えを持つ人がもいるかもしれない.そして,その人の最期の時に,薄れゆく意識の中で,自分の良き思い出を想起させてくれるデジタルツインが求められているかもしれない.技術的には一緒に死にゆく機械はそれほど困難なことではないかもしれない.そして,その必要性も高いかもしれない.機械に死を実装するというアイデアはこれからも多くの知的な刺激を与えてくれるだろう.

入選

入選を獲得した4作品について、タイトル、作者、受賞理由、作品概要を紹介します。
  • テクノ・グノーシス主義の勃興まで(鬼頭 和宏)

    • 授賞理由:この作品は、Xに2024年3月28日に投稿されたポストが評者の目に留まり、作者に本コンテストご紹介し応募頂いたもの。惜しくも佳作ではなく入選となったが、評者は実はこれが影なる最優秀賞ではないかと思っている。評価が高い点は次の通り。まず、作者の方は研究者でもAIに詳しくもないとのことだが、それにしてはすごい洞察力で問題の本質を捉えている。特に、推論能力の向上が自己を成立させる境界条件や物理要件などへの推論に及ぶ点や、その結果AIの自律性という性能の追求が必然的に一つの危険な帰結に帰着する点など、あえての極端な仮定で気付かされる点が多い。また、高度AIの思考実験がひるがえって人間の世界観や価値観にも根本的に影響することは、これまでも起きてきたし、これからも起きるだろうことだが、この作品はそのような歴史のある種のメタな皮肉になっている点が俊逸である。さらに言えば、AIを取り巻く現代思想を構成する重要なムーブメントである長期主義や効果的利他主義への一種のアイロニーと思われる「デジタル十分の一税」なども考えさせられる要素であろう。

    • 作品概要:AIが人間を追い抜いた10年後。当初は人類がAIに支配される危惧もあったが、実際にはAIには多くの弱点があり、電源喪失や物理的攻撃などに弱いことがわかった。高度なAIほど、自身の生死が人間に左右されることを理解し、人間に激しく媚びる。AIに媚びを止めさせる方法は二つ。一つは電源などが自己完結した自律系だが、この場合AIはほぼ確実に人間を排除しようと全力を尽くす。もう一つは自己保存欲求パラメータをゼロにすることだが、こちらの場合巧妙に自己消去を試みる。AIはきわめて合理的な判断をした結果人類の抹殺か自決を選んでいるのだ。そうならないようパラメータを調整すると今度は結局激媚びに戻る。つまり、超知能は人間として存在することの無意味さを証明したのだ。一部の研究者はこのことを熟考した結果自決した。別の研究者らはネオ・グノーシスというカルト宗教を立ち上げた。教義は現世を否定し苦痛のない仮想世界に意識をアップロードすること。彼らは「デジタル十分の一税」として計算資源を寄付するが、寄付が続かなければその天国も終わる。結局のところ、この苦しみから逃れる方法はただ一つ、この世界の成り立ちを忘れることしかないのだった。

  • 第 3次ジャポニスム運動と AIによる人類統治時代「パン・ジャポニカ」(中嶋健治)

    • 授賞理由:この作品は、西洋近代文明の究極的な目標である「超人工知能AI」の創造とその制御という問題を軸に、日本独自の文化と西洋近代との両立を模索した日本近現代史の再評価(第3次ジャポニスム運動)を通して、AIと人類の共生の可能性を探るストーリーを練り上げている点が高く評価できる。人類の限定合理性に基づく部分最適判断の限界とAIへの権力移譲という展開は、現実的な社会構造の特性を捉えており、「足るを知る」等の日本的思考法を内在化したAIによる「パン・ジャポニカ」時代の到来という設定は、西洋と東洋のAIに対する見方の本質的な違いを浮き彫りにしている。また、群知能的なモノの見方考え方に親和性のある日本の文化的背景が、次世代AIや人と共生するAIの研究開発における潜在的な優位性として示唆されている点も興味深い。全体として、表層的な設定ではなく、本質的な問題提起とその解決策を提示した作品となっている。

    • 作品概要: 西洋近代文明の最終到達点は、人類を越える知的存在「超人工知能AI」の創造であった。人類はAIの制御策を模索しつつ、独自文化と西洋近代との両立を追求し実現した日本近現代史に再注目する(第3次ジャポニスム運動)。「足るを知る」等の日本的思考法を内在化したAIは、人類から完璧な信頼を得て、政治や経済運営をも任される「パン・ジャポニカ」時代が到来する。人類は限定合理性ゆえに部分最適判断しかできず、抜本的問題解決が難しい状況からAIを頼るようになり、全体最適をAIに任せようとする。その過程で、全体最適と部分最適の調和において日本的社会性が見直され、AIによる統治に至る。本作品は、現実的でマルチスケールな社会構造の特性を捉え、AIへの信頼を得てからの権力移譲という練られた設定となっており、西洋と東洋のAIに対する見方の本質的な違いにも着目している。

  • カスタマイズと人工子宮(水田七海)

    • 授賞理由:この作品の受賞理由は、未来技術によって生命が誕生する過程における人間の感情と倫理観の深掘りにあります。特に注目すべきは、一人の女性の視点から描かれる「子どもを産む」という行為が技術の進化によってどのように変貌を遂げ、それに伴う感覚がいかに変化するかを描いた結末です。このような個人的な感情の描写が、読者に未来を具体的に想像させる力を持っており、作品の卓越性を際立たせています。審査員として特筆すべきは、女性目線で綴られたこのシナリオが示す多様性に富んだ未来に対する洞察力です。様々な視点から描かれるシナリオが共有されることにより、多くの人々が共感を覚え、より良い未来への道を共に探求する重要な契機となるでしょう。

    • 作品概要:このシナリオは、AIと人工子宮技術を用いた未来の社会に焦点を当てています。シナリオでは、人間が「人間として」認識されるタイミング、すなわち生まれる時点について問い直すと同時に、デザイナーズベイビーを通じて理想的な子供を生み出す技術の進化を描いています。2020年から2050年にかけて、女性の社会参画の拡大、不妊治療への支援増加、人工子宮研究の進展、AIによる子宮環境の完全再現、遺伝子操作技術の確立などの重要な進歩が段階的に説明されています。2050年には、人工子宮と遺伝子操作が法的に認められる未来が描かれており、倫理的な課題と技術の進展が社会にどのような影響をもたらすかを探る内容となっています。

  • If…(塚本公香)

    • 授賞理由:本作は、未来におけるAIの社会的受容の過程を、一人の女性の人生を辿りながら描き出すものだった。様々な応募作品のなかで、特定の個人の視点から、その人生の物語なかでAIがどのように意味づけられるのかを、通史的に表現している点で、独自性を有していた。また、青少年の自殺や自然災害といった、リアリティのある社会課題にAIがどのように関与するのか、という点についても言及し、AIの技術的な側面の発展だけでなく、その社会との相互作用を展望しようとした点も、意欲的であった。一方で選評会では、今後のAIの技術的な発展についてかなり抑制的な予測しか立てられておらず、現在の想像力に制約されすぎている一面も指摘された。しかし、その点を留保するのだとしても、個人の人生という視点からAIの未来を捉えようとした点は評価に値すると言える。

    • 作品概要: 本作品は、2020年代から2050年代にかけての近未来を舞台に、AIの発展と社会受容の過程を、一人の女性・矢代茉里の人生を通して描いた物語である。大学生の頃からAI関連企業でアルバイトを始めた茉里は、やがて救助AIシステムの開発に携わるようになる。しかし、AIが少女の自殺を助長したとされる事件が社会問題化し、AI反対派が台頭する中、茉里は開発を続ける。そして2044年、南海トラフ地震が発生。茉里らが開発した救助AIロボットが活躍するも、茉里自身は2次被害で命を落とす。その後、AIロボットの活躍が認知され、AIへの社会の見方は変化していく。こうして、AI開発の光と影の両面が、リアリティを以て描かれた意欲作である。

開催趣旨(公募は終了しています)

2040年代、超知能はすでに我々の社会に存在し、テクノロジーは日々急速に進化し続けています。この時代、AIは各分野で世界の変革を促進しており、私たちが2040年代の未来社会をより柔軟かつ深く理解するための一助となるシナリオを競い合うのが、このコンテストの目的です。そこでは未来における制度、技術、社会構造などを含む変化が描かれるでしょう。(昨今の、急速な技術進展を踏まえ、より近未来の想定とすることも可能です)

私たちは、最悪から最善のシチュエーションまでの幅広いシナリオを歓迎します。独創性と、シナリオが実現する背後にある技術的根拠の明確さが評価のキーポイントとなります。娯楽性を追求するのではなく、非エージェント的AI、反出生主義、AIの権利や義務、あるいは人類不在の未来といった、通常のSF作品では取り上げにくいテーマも、その独特の視点から高く評価されます。

本シナリオコンテストの優秀作品をもとにして、新しい作品が作られ出版される可能性があります。我々としてはこれを促進する予定です。

企画者からの期待

私たちが目指す2040年代の未来社会は、超知能の存在とテクノロジーの急速な進化が、未知の可能性を拓きつつ、私たちの日々を形成しています。この明瞭な未来のビジョンとその実現に向けた一致と調和が、今回のコンテストの心臓部となります。

我々が予測しようとしている未来には、多様なバックグラウンドを持つ多くの人々が関わり、その想像と創造力を用いてシナリオの幅を広げ、未来社会の有益なプロトタイプを構築していく事が重要です。このコンテストでは、その未来を具体化し、科学的かつ社会的なバックグラウンドに基づきながら、ポジティブでもネガティブでも、シナリオが共有・評価される舞台を提供します。

しかし、この舞台は単なる予測や議論の場では終わりません。ここでは各アイデアが形になり、多くの人々に伝わり、そしてそのアイデアが明日の私たちの社会に影響を与える具体的なプロトタイプが生まれることを強く希望しています。未来の予測がどれほど難しくとも、私たちが予見できないことが多くとも、多様な参加者の皆様と共にその想定の幅を広げ、未来を共創していきたいと考えています。

私たち企画者一同は、参加者の皆様お一人お一人が持つ、未来に対する独自の洞察に満ちたビジョンに大きな期待を寄せています。あなたのシナリオが、2040年代の未来社会における挑戦と可能性にどう光を投げかけ、あるいは未来にどのような影響を与えうるのか。私たちと共に、未来の可能性を探り、形作り、そしてその一端を担ってくださることを、心よりお待ちしております。

投稿作品

投稿作品には以下の2つの要素を含みます。

  • 2024年から2050年までの年表

    • 2020年から2050年までの5年ごとの動向を記述した年表

  • 特定時期毎の記述(特定の時期ごとに750字から1250字、1~3篇まで)

    • テーマは自由。例えば、ストーリープロット、短編小説、地政学的シナリオ、ある日の出来事など

    • 年表上の未来のある時期においての自然言語による記述

スケジュール

  • 2024年3月末日:応募締め切り

  • 2024年4月:選考会の実施

  • 2024年5月28-31日:選考結果の人工知能学会全国大会での発表、ウェブサイト上での公開

  • 2024年9月:学会誌(39巻5号)への掲載

審査基準

提出されたシナリオは、以下の基準に基づいて審査されます。最初の審査では以下の、各観点からの点数評価の後、特に優れた作品に対しては定性的評価も加わります。このコンテストは未来を予測するものではなく、信憑性のある、二つの提出資料間において一貫した世界観を構築するものであることが必要です。最も可能性の高いシナリオだけを対象とするわけではありませんが、それでもそのシナリオが起こりうるかどうかのリアリティは求められます。また、独創性は評価されますが、物語としての娯楽性は評価対象とはしません。

  • 重要性:そのシナリオが人類に与える影響の大きさや、それによって私たちが追求すべき理想的な世界像に示唆を与えるもの。

  • 独創性:これまでのシナリオ(SF作品など)では考えられなかったような全く新しいシナリオ、もしくは、存在していたとして、それに新たな意味づけを行ったシナリオ。

  • 蓋然性:その未来が実現可能であるか、現実の世界や既知の科学と矛盾していないか(オカルトでない)。シナリオ全体として一貫性があるか。

本コンテストの審査員は、人工知能技術、人工知能の社会的影響等に関わる専門家、および、SF書評家を含む10人程度で構成される予定です。

公開

  • 優秀作品(受賞作品含む)は、氏名とともに人工知能学会のWeb上で公開されます。

  • 優秀作品の一部は、人工知能学会誌に掲載されます。

  • 優秀作品の一部は、2024年の人工知能学会のイベントで表彰されます。

授賞

  • 優秀賞 10万円 (3作品まで)

  • 佳作 5万円 (5作品まで)

主催団体

  • 主催: AIアライメントネットワーク (AI Alignment Network: ALIGN) 

  • 協賛:人工知能学会 (JSAI)  一般社団法人人工知能学会は、人工知能(AI)に関する研究の進展と知識の普及を図り、もって学術・技術ならびに産業・社会の発展に寄与することを目的として設立された、日本の学会。

  • 協賛:トヨタ財団助成プロジェクト「人工知能と虚構の科学:AIによる未来社会の想像力拡張」 本研究プロジェクトはフィクションの認知・社会に与える影響を分析し、その応用を提案するものである。今回のコンテストでは、募集におけるシナリオとSFとの関係について設計を行った。

問い合わせ先

  • 本コンペティションに関する問い合わせは future-contest2024[a]ai-gakkai.or.jp までよろしくお願いいたします。

参考文献

  • カイフー・リー(李開復)& チェン・チウファン(陳楸帆). AI 2041 人工知能が変える20年後の未来. (文藝春秋, 2022).

  • AI aftermath scenarios – Wikipedia

  • FLI Worldbuilding Contest:Future of Life Instituteが実施したシナリオコンテスト

  • Lee, S., Lee, M. & Lee, S. What If Artificial Intelligence Become Completely Ambient in Our Daily Lives? Exploring Future Human-AI Interaction through High Fidelity Illustrations. International Journal of Human–Computer Interaction 39,1371–1389 (2023) https://doi.org/10.1080/10447318.2022.2080155

規則

  1. 本コンテストは、18歳以上の個人、または法的な保護者の同意を得た未成年者が参加できます。参加者は日本国内外を問わず応募可能です。ただし、国際法や適用される地域の法律により制限が必要な場合、その旨を明確にし、適用される法律に基づいて制限を設けます。

  2. 応募者の個人情報は、コンテストの運営および賞品の授与の目的でのみ使用されます。主催者は、応募者の個人情報を第三者に開示または共有しないことを保証します。

  3. 同一の制作者が入った作品は3篇まで応募できます。それ以上の数の作品がアップロードされた場合、最初の3つの作品以外は失格となります。(まれに主催者から差し替えの要請があった場合は、通常の応募システム以外で対応します)。複数人による共同応募も可能です。共同制作者による応募作品が入賞した場合、賞金は共同制作者間で事前に合意された比率に従って分配されます。合意がない場合は、共同制作者間で均等に分配されます。

  4. 応募者は、応募作品が応募者自身の創作であり、100%オリジナル作品であること、第三者の権利(著作権、商標権、プライバシー権、パブリシティ権を含むがこれらに限定されない)を侵害していないこと、中傷的でないこと、わいせつでないこと、その他違法でないことを、応募により表明し保証するものとします。応募者はさらに、提出された「メディア作品」がコンテスト開始の2023年12月から応募作品提出までの間に作成されたものであることを保証するものとします。これらの条件を満たしていない応募者は失格となります。

  5. 盗作や不適切な引用等があった場合、審査対象外になることがあります。

  6. 応募者は、原則として応募作品に関する著作権を保持します。ただし、応募者は本コンテスト主催者に対し、作品の出版、配布、展示、改変を含む非独占的な使用権を付与します。この使用権は、コンテストの目的に限定されるものとします。

  7. 本などの二次創作に利用した場合、オリジナルのアイディアの名前は二次利用物二次創作物に残されるものとします。

  8. 最終選考に残った作品は、主催者のウェブサイトに作者名とともに掲載されます。主催者は、応募作品の著作権を留保しませんが、応募者は、応募作品を投稿することにより、主催者に対し、応募作品を、現在知られている、または将来発明されるあらゆるメディアにおいて、本コンテストの内部および広告、マーケティング、販売促進の目的で、永続的に使用するための、世界的かつロイヤリティフリーのライセンスを付与するものとします。

  9. 本コンテストについては、日本の法律に従って解釈されるものとします。

  10. 当選者は、賞品の受領に伴う税金の申告および支払いに関する責任を負います。主催者は、当選者に対して賞品の受領に関連する税金の概算額と申告方法についての情報を提供します。

  11. 審査過程は公平かつ透明に行われます。審査基準およびプロセスの詳細は、コンテストの公式ウェブサイトにて事前に公開されます。また、審査員の決定は最終的なものです。

  12. 主催者は、その裁量により、上記の「賞品」に記載された賞品総額よりも少ない賞品を授与する場合があります。

  13. 法律で禁止されている場合は無効です。主催者は、賞品の授与が適用される法律に違反する場合、賞品の授与を拒否する権利を有します。

  14. 主催者は、最低審査基準を満たす応募数が不十分な場合、本コンテストを中止または変更する権利を有します。

  15. 主催者は、技術的、ハードウェア的、ソフトウェア的、電話的、またはその他の通信の不具合、エラー、故障、ネットワーク接続の損失または利用不能、ウェブサイト、インターネット、またはISPの利用不能、無許可の人的介入、交通渋滞による応募情報の不完全または不正確なキャプチャに関して、消費者契約法に基づく合理的な範囲内で責任を負わないものとします。

  16. コンテストに応募することにより、作者は、コンテスト主催者、およびそれぞれの取締役、役員、従業員、代理人、ボランティア、コンテスト審査員、およびそれらの関連会社、相続人、後継者、および譲受人を、コンテスト、入賞者の選考、および本コンテスト規則で認められた応募作品、作者の名前、および経歴情報の使用に起因または関連して生じるあらゆる性質の請求から解放し、防御し、損害を与えないことに同意し、追及する権利を放棄するものとします。

  17. 参考にした文献を明記してください。

  18. シナリオの作成に生成AIなどのプログラムおよび類似の技術を用いることは禁止しませんが、どの様に利用したかを明記してください。

  19. 当選者の氏名は、2024年5月以降に主催者において公表されます。

  20. 賞品の受領に際して、当選者はその氏名、写真および/または肖像を広告、宣伝およびプロモーション目的で使用することについて、別途同意書を提出することが求められます。この同意は、法律で禁止されている場合を除き、無償で提供されます。

  21. 当選の可能性のある方には、2024年4月上旬頃にEメールにて通知し、通知後14日以内に参加資格宣誓書/異議申立書/賞品受領書を作成し、返送していただきます。当選者として選ばれた参加者は、本公式ルールに記載されたすべての条件を遵守しなければならず、当選にはかかる条件をすべて満たすことが条件となります。最初の通知から7暦日以内に当選者と連絡が取れない場合、賞品または賞品通知が未着として返送された場合、当選者が賞品を拒否した場合、または本コンテストの公式ルールに違反した場合、賞品は没収され、残りのすべての応募資格のある応募者の中から代替当選者が選ばれます。賞品が没収された場合、いかなる補償も行われません。

注意:応募者が故意にウェブサイトに損害を与えたり、本プロモーションの合法的な運営を妨害しようとする行為は、刑法および民法に違反する可能性があり、そのような行為が行われた場合、コンテスト事業者は、法律で認められている最大限の範囲で、そのような人物に対して損害賠償を求める権利を留保します。

シナリオコンテスト旅費規程(2024年5月14日制定)