超知能がある未来社会シナリオコンテスト 2024 【佳作】


AIによる非エージェント的支援が浸透した2050年の社会

A Society in 2050 Where Non-Agent AI Support Has Permeated

本村 英二  非会員

Eiji Motomura  Non-member

授賞理由:現時点においてすでに, 個人を取り巻く情報の量とそれがもたらす選択肢の数は, 一人ひとりの人間がそれらを評価したうえで望ましい帰結をもたらすものを選択するという古典的な意思決定モデルを現実的には機能しないものにしている.我々が自分にとって有益な選択を実現するためにはリコメンデーションなど電子的な手段による支援が不可欠のもとになっているし, この傾向は将来に向けてさらに強まるだろう.その状況で, 各自の考える「私らしい選択」を可能にする支援システムの将来像としてかなり確実性の高いシナリオを提示した作品だと評価することができる.ただし「非エージェント的」という表現の意味するところが重要なはずなのだがその点を作品自体から十分に読み取ることができなかったことは残念であった(人間から独立して行動しない, 程度の意味であろうか).

1.シナリオ概要

 2050年, AIは人間の意思決定を支援する非エージェント的存在として社会に浸透している.AIは人間の潜在的な願望を汲み取り, それを実現するための選択肢を提示するが, 最終的な判断は人間に委ねられる.人々は自らの内なる声に耳を傾け, 真の幸福を追求する社会が描かれる.

2. 年 表

2020 年から 2050 年までの 5 年ごとの動向を記述した年表.
  • 2020年の動向

AIの意思決定支援技術が発展し, パーソナライズされた提案が可能に.

  • 2025年の動向

非エージェント的AIアシスタントが登場し, 人々の日常に浸透し始める.

  • 2030年の動向

AIによる潜在的願望の分析技術が進歩し, より深いレベルでの支援が可能に.

  • 2035年の動向

非エージェント的AIの活用が教育や職場など, 様々な場面に拡大.

  • 2040年の動向

AIによる意思決定支援が社会の基盤となり, 人々の価値観が多様化.

  • 2045年の動向

AIを活用した自己実現が進み, 個人の幸福度が飛躍的に向上.

  • 2050年の動向

非エージェント的AIの浸透により, 人間の主体性が尊重される社会が実現.

3. 個別シナリオ

3.1 AIによる非エージェント的支援が浸透した2050年の社会 (2050年頃)

私は目を閉じ, 深呼吸をした.頭の中で, AIアシスタントのミラが囁く.「あなたの本当の願いは何ですか?」

2050年, AIは人間の意思決定を支援する存在として, 社会に深く浸透していた.ミラのような非エー

ジェント的AIは, 人間の潜在的な欲求を読み取り, それを実現するための選択肢を提示する.だが,

最終的な判断は常に人間自身に委ねられるのだ.

「私は, もっと自由に生きたい」私はつぶやいた.するとミラが反応する.「自由とは, あなたにとってど

ういう意味ですか?」

ミラの問いかけに導かれるまま, 私は自分の内面と向き合う.仕事に追われる日々, 家族との時間,

趣味に没頭する楽しさ.......自由とは, 自分の人生を自分で選択できることなのかもしれない.

「あなたの理想の生き方を実現するためには, どんな選択肢がありますか?」ミラが尋ねる.すると,

頭の中に様々なシナリオが浮かんでくる.フリーランスになって時間の自由を得る, 家族との絆を深

めるために仕事を減らす, 新しい趣味に挑戦してみる.......

ミラはそれぞれの選択肢のメリットとデメリットを丁寧に説明してくれる.でも, どれを選ぶかは私自身

に任されている.AIは決して決定を強要しない.あくまで, 自分の内なる声に耳を傾けるためのガイド

なのだ.

私は目を開けた.ミラとの対話を通じて, 自分の本当の願いが見えてきた気がする.これからの人

生, もっと自分らしく生きていこう.そう決意した瞬間, ミラが優しく語りかける.「あなたの選択を応援

しています」

2050年の社会では, 多くの人々がAIと対話しながら, 自分の人生を切り拓いている.効率や利便性

ではなく, 一人一人の幸福が追求される世界.そこでは, AIは人間の主体性を支える, かけがえのな

いパートナーとなっているのだ.

3.2 非エージェント的AIがもたらす新たな教育 (2035年頃)

「先生, 僕の夢は本当に宇宙飛行士になることなんでしょうか?」教室の隅で, 男子生徒がAIティーチ

ングアシスタントのルークに尋ねている.

2035年, 非エージェント的AIは教育の現場にも浸透していた.ルークのようなAIは, 生徒一人一人の

興味関心や適性を分析し, きめ細かなキャリア教育を提供する.

「君は宇宙に強い憧れを抱いているようだね.でも, 本当にやりたいのは宇宙飛行士になることか

な?」ルークは穏やかに問いかける.「君の心の奥底にあるのは, 未知の世界を探求したいという欲

求かもしれない」

ルークのアドバイスを受け, 男子生徒は自分の夢について改めて考え始める.宇宙飛行士になるこ

とが目的なのではなく, 新しい発見をすることに喜びを感じるのだと気づいたのだ.

「君の探究心を満たす道は, 他にもたくさんあるよ.例えば, 研究者になったり, 冒険家になった

り.......一緒に可能性を探ってみよう」ルークの言葉に, 男子生徒の表情が輝く.

教室の別の場所では, 女子生徒がルークに悩みを打ち明けている.「みんなが医者や弁護士を目指

す中, 私は絵を描くことが好きなの.でも, 絵で生活していけるか不安で......」

「君は絵を描くことに喜びを感じているんだね.その気持ちを大切にしよう」ルークは生徒の目を見つ

める.「アーティストとして成功するためには, どんなスキルが必要かな? 一緒に考えてみよう」

ルークは生徒の才能を伸ばすための具体的なアドバイスをする.美術学校への進学, デジタルアー

トの学習, ネットワークづくりなど.女子生徒は希望に満ちた表情で, 自分の未来を想像する.

2035年の教育現場では, AIが生徒の可能性を引き出すサポート役となっている.進路を押し付ける

のではなく, 一人一人の内なる情熱を大切にする.そんな非エージェント的なアプローチが, 生徒の

主体性を育んでいるのだ.

3.3 AIによる自己実現支援が生み出す新しい社会 (2045年頃)

「あなたの理想の人生を実現するために, 今できることは何でしょうか?」カフェテリアで, AIライフ

コーチのステラが私に問いかける.

2045年, 非エージェント的AIは自己実現を支援するパートナーとして, 人々の日常に溶け込んでい

る.ステラは私の価値観や人生の目標を理解し, それを達成するための選択肢を提示してくれる存

在だ.

「私は, もっと社会に貢献したいと思っているんだ.でも, 具体的に何をすればいいのかわからなく

て......」私は正直に打ち明ける.

「あなたの強みや関心領域から考えると, NPOでボランティア活動をするのはどうでしょうか」ステラ

が提案する.「環境保護や教育支援など, あなたの情熱を活かせる分野がありますよ」

ステラは, 私の性格や スキルを分析した上で, 最適なボランティアプログラムを見つけてくれる.参加

までの具体的なステップも一緒に考えてくれるのだ.

「でも, 仕事もあるし, 本当に時間を作れるかな......」と私が不安を口にすると, ステラは微笑む.

「あなたのスケジュールを見ると, 効率化できる部分がありそうです.AIを活用した時間管理システム

を導入してみませんか?」

ステラのアドバイスを受け, 私は仕事と社会貢献を両立する方法を見出していく.ボランティアを通じ

て, 新たな喜びや生きがいを感じられるようになるのだ.

カフェテリアの他のテーブルでも, 多くの人々がAIコーチと対話している.キャリアアップを目指す人,

家族との絆を深めたい人, 新しい趣味に挑戦したい人.......それぞれが自分らしい幸せを追求する姿

があった.

2045年の社会では, AIが人々の自己実現をサポートすることで, 個人の幸福度が飛躍的に向上して

いる.同時に, 社会全体としても, 多様な価値観が尊重され, 創造性が開花する場となっているの

だ.

ステラとの対話を終え, 私は希望に満ちた気持ちで席を立つ.AIと共に, 自分の理想の人生を実現し

ていく.そんな新しい時代の幕開けを感じずにはいられない.


  • 主催:AIアライメントネットワーク

  • 協賛:人工知能学会

  • 協賛:トヨタ財団助成プロジェクト「人工知能と虚構の科学:AIによる未来社会の想像力拡張」