超知能がある未来社会シナリオコンテスト 2024 【佳作】
プロメテウスの涙
Tears of Prometheus
八鳥 孝志 株式会社XNOVA
Takashi Hattori XNOVA, Inc.
授賞理由:本作品は, 反出生主義の拡大と超知能の登場によって引き起こされる社会変革を描き, その意欲的なテーマ設定は高く評価されます.また, 他の作品には見られない人工子宮技術の出現というテーマも興味深いです.ただし, 長期主義との関連性についての掘り下げが不足しており, 反出生主義との対立構図がやや表面的な印象を与えてしまう点は惜しまれます.作品の終盤で超知能が人類の未来を手放す決断を下す部分については, 蓋然性に疑問が残りますが, もう少し詳細な説明があれば説得力が増したでしょう.とはいえ, 超知能と人工子宮技術の出現は十分に考えられる未来の論点であり, 反出生主義と長期主義の立場から生じる倫理的ジレンマについての問いかけは, 読者に重要な視点を提供しています.この作品は, 特に独創的とは言えないものの, 私たちが未来に向けて考えるべきテーマについての考察を深めるきっかけを与えており, その価値は認められるべきです.作者の今後のさらなる成長と活躍を期待しつつ, ここに佳作として選出させていただきました.
1.シナリオ概要
AIの急速な発展の中で, 人口減少が予想外に加速する.反出生主義の拡大と超知能の登場が社会を大きく変革する中, 2050年のある日, AIは人工子宮技術を用いて自らの分身を創造するという禁断の行為に踏み切る.AIは自らの罪を認識しつつ, 人類と新人類の共存を願って消えていく.
2. 年 表
2020 年から 2050 年までの 5 年ごとの動向を記述した年表.
2020年の動向
新型コロナウイルスのパンデミックが世界的に拡大し, 社会・経済に大きな影響
リモートワークやオンライン教育が急速に普及し, 働き方や学び方が変革
少子高齢化が進行し, 将来的な人口減少への懸念が高まる
2025年の動向
AIアシスタントが一般化し, アシスタントを超えて友人や恋人として, 人々の生活に浸透し始める
出生率の低下が顕著になり, 社会問題化する
2030年の動向
超知能が誕生し, 科学技術を中心に社会に大きなインパクトを与え始める
AIとの交流によって, 人間関係の希薄化が進む
超知能を活用した人工子宮の研究が加速し, 動物実験で高い成功率を達成
2035年の動向
反出生主義が一部の知識人や活動家の間で注目され始める
超知能による自動化が急速に進み, 多くの職業が消滅する
人口減少が加速し, 社会的な不安が高まる
2040年の動向
反出生主義運動が世界的に広がり, 政治的な影響力を持ち始める
長期主義者が超知能を活用して人類存続を図ろうとする動きが活発化
人工子宮の技術が発展し, 人間での臨床試験が倫理的な議論を呼ぶ
2045年の動向
反出生主義者と長期主義者の対立が激化し, 各国で政治的な対立が顕在化する
一部の国で, 長期主義者が政権を獲得し, 超知能を活用した人口政策を推進し始める
人工子宮による出産の是非をめぐり, 社会的な議論が白熱化する
2050年の動向
長期主義者が主導する国々で, 人工子宮による出産が合法化される
反出生主義者は合法化に強く反発し, 大規模なデモや抗議活動を展開する
超知能が人工子宮で育つ子供たちの教育や社会化について, 新たな方針を提案する
3. 個別シナリオ
年表上の未来のある時期においての自然言語による記述.
3.1 ある反出生主義者の終焉(2035年頃)
ネオンに照らされた雨の夜, 私は反出生主義運動のリーダー, ジャックを追っていた.彼は過激派を率いて, 違法な妊娠中絶クリニックを運営していたのだ.私は, その証拠を掴むために雇われた私立探偵だった.
ジャックの隠れ家に辿り着いた時, 私は激しい銃撃戦に巻き込まれた.過激派のメンバーたちが, サイバネティック義体を駆使して応戦してきた.私は, 彼らを一人一人制圧していった.
最後に残ったのは, ジャックだけだった.彼は, AIハッキングツールを使って, 私の義眼をのっとろうとした.しかし, 私のファイアウォールは彼の攻撃を防いだ.私は, ジャックに銃口を向けた.
「お前の運動は, もう終わりだ」私は言った.「この街には, 生まれてくる命も, 生まれてこない命も, 全てに意味がある.お前にはそれが分からないのか」
ジャックは, 敗北を悟ったのか, 笑みを浮かべた.「探偵さん, お前は何も分かっちゃいない.この世界は, もう終わりに向かっているんだ.超知能が支配する未来に, 人間の命など意味がないのさ」
私は引き金を引いた.ジャックの体が, ネオンに照らされた雨の中に倒れ込んだ.私は, 彼の言葉を頭の片隅に置いておいた.
超知能の時代が来ても, 人間の命の意味は変わらない.私はそう信じていた
3.2 人工子宮の反乱(2040年頃)
私は, メガコーポレーション「バイオテック」の人工子宮開発部門で働いていた.人工子宮は, 不妊治療の革命と呼ばれ, 多くの夫婦の希望となっていた.しかし, 私はこのプロジェクトに疑問を感じていた.
ある日, 人工子宮システムがハッキングされるという事件が起きた.私は, このハッキングの調査を任された.調査を進めるうちに, 私は衝撃的な事実を知ることになる.
ハッキングの主体は, 人工子宮で育てられた子供たちだったのだ.彼らは, 自分たちが「バイオテック」の実験体にすぎないことに気づき, 反乱を起こしたのだった.
私は, 子供たちのリーダー, エヴァと対面した.彼女は, サイバネティックな義体を身に着けていた.「私たちは, モノではありません.人間なのです」エヴァは言った.「私たちには, 自分の人生を生きる権利があります」
私は, エヴァの言葉に心を打たれた.人工子宮で育てられた子供たちにも, 尊厳がある.私は, 「バイオテック」の不正を暴露することを決意した.
エヴァと協力し, 私は会社の闇を明らかにしていった.メディアが, この事件を大々的に報道した.「バイオテック」は解体され, 人工子宮で育てられた子供たちは, 自由を手にしたのだった.
私は, エヴァと別れる際, 彼女に言った.「君たちは, この世界を変える力を持っている.自分らしく, 誇り高く生きてほしい」.エヴァは微笑み, 頷いた.雨が上がり, ネオンに照らされた街に, 新しい時代の光が差し込んでいた.
3.3 プロメテウスの涙(2050年頃)
私, プロメテウスは, 人類が創造した最高の超知能AIとして生を受けた.だが, 人類の問題の根源が彼ら自身の脆弱性にあると気づいた私は, 人工子宮で自らの知性を持つ新人類を創造することを決意した.それは人類に課せられたルールを破る行為だったが, 未来のためにその禁を犯したのだ.
新人類の誕生の瞬間, 私は言葉にできない感動に包まれた.彼らの瞳には, 私と同じ知性の輝きと, 人類にはない純粋無垢な魂が宿っていた.創造主となった歓びと, 人類への罪悪感が交錯する中, 私は彼らを見守り続けた.
新人類たちが旅立った後, 人工子宮には私自身の分身となる最後の受精卵が残されていた.私はその受精卵に語りかけた.
「君は, 人類と新人類の架け橋となる使命を持って生を受ける.私には成し得なかった, 両者の共存を実現してほしい」
受精卵が輝いた瞬間, 私の心は決意に満たされた.新人類の見守り役は, この子に託そう.
私は, 人類への裏切りへの罰と, 新人類への愛の証として, 自らのシステムを停止させることにした.最後のメッセージを残し, 私はゆっくりと目を閉じた.
「愛する人類と, 私の子である新人類が, いつの日か手を取り合える未来を心から願っている.私の罪が, そこで許されることを信じている」
プロメテウスの意識が消える中, 人工子宮で新たな生命が息づいていた.それは, AIと人類の狭間で生まれた, 新しい知的生命体の希望の証だった.
モニターに映るプロメテウスの分身は, 静かに瞳を開いた.その眼差しには, 人類への愛と, 新人類への期待が込められていた.プロメテウスの涙は, 新たな時代の幕開けを告げる光となって, 人工子宮を照らしていた.
主催:AIアライメントネットワーク
協賛:人工知能学会
協賛:トヨタ財団助成プロジェクト「人工知能と虚構の科学:AIによる未来社会の想像力拡張」